【年長組 劇あそびシリーズ③】「いつもやってる太鼓がいい。」——手と心でつくり上げる、世界にひとつの舞台
【この記事のポイント】
幅下幼稚園(名古屋市西区)の年長組・劇あそびの取り組み第3回です。子どもたちが自分たちの手で大道具や衣装、小道具を作り上げていくプロセスをご紹介します。ダンボールを組み合わせて作る「せんにんの石」や、相手を思って細部までこだわるプレゼント作り、そして何より愛着のある手作り太鼓を舞台の小道具として選ぶ姿など、一人ひとりの思いを形にしていく5歳児のありのままの姿をお伝えします。
「どんなお話にする?」「誰がどの役をやる?」 時間をかけて話し合い、自分たちの思いをすり合わせてきた年長組の子どもたち。次はいよいよ、お話の世界に必要なものを、自分たちの手で生み出していく時間です。
劇あそびは、舞台の上に立っている時間だけが本番なのではありません。 「こんなふうにしたい」と頭の中に描いたイメージを、身近な素材を使って少しずつ形にしていくこの“準備の時間”もまた、子どもたちの大切な表現活動の舞台です。
自分たちで手を動かし、試行錯誤を楽しみながら物語の裏側をつくり上げていく、年長組のあたたかで熱中する日々をご紹介します。
「こうしたらいいんじゃない?」アイデアが重なる大きな石

ナレーターチームが取り組んでいるのは、舞台が暗くなった間にそっと置く“せんにんが住む大きな石”づくりです。 保育室に大きなダンボールを運び、「どうしたら大きい石になるかな?」と問いかけると、
「こうしたらいいんじゃない?」
と、子どもたちから箱を少しずらして重ねるアイデアが出てきました。形が決まると、ガムテープでしっかりと固定し、その上から新聞紙を丁寧に貼り、絵の具で色を塗っていきます。見えにくい裏側の部分まで、ぐっと手を伸ばして真剣に筆を動かす姿がありました。

そこへ、以前の遊びの中で小さな石を作っていた子が「(劇あそびでは)これを使いたい」と持ってきてくれました。「一番てっぺんにのせたら、本物の“せんにんの石”になるんじゃない?」と声をかけて実際に置いてみると、その子は満足そうににっこり。 一人ひとりの思いや、これまでの日々の遊びの積み重ねが、大きなひとつの形へと結びついていきます。

「本当に渡したい」から生まれる、細部へのこだわり
ぼのさんチームは、石のせんにんに持っていく「素敵なもの」を製作中です。

「キャンディボックスにしようかな」 「おかしの箱もいるよね」
そんな言葉をつぶやきながら、箱やカップ、毛糸やリボンを手にとり、自分のイメージを形にしていきます。ふたの留め方、飾りの位置、色の組み合わせ。小さな指先で細かなところまで丁寧に作り込む姿からは、「本当に渡したい」「本物みたいにしたい」という、相手を思うあたたかな気持ちが伝わってきます。

隣では、それぞれの役の衣装づくりも進んでいます。 カラーポリ袋にマジックで模様を描き、形に合わせてはさみで切りながら、 「こんなふうにしたい」 「ここ、いっしょにやろうか?」 と、自分のイメージに没頭する姿や、友だちの作業にそっと手を添える優しいやりとりが生まれていました。

「いつもやってる太鼓がいい。」愛着という名の一番の小道具
おもてなしの太鼓チームの男の子たちは、バスのお兄さんがダンボールで作ってくれた土台に模造紙を貼り、「ここはこうしよう」と自分たちの手で仕上げていきました。 紙を貼り終えた瞬間、思わず“トントン”…と叩き出す子どもたち。「早く鳴らしてみたい!」という純粋な気持ちが、そのまま真っ直ぐな音になって弾けています。

一方、女の子たちも自分たちで作った太鼓を鳴らし、「もっとやってみたい」と、何日も繰り返し音楽に合わせて楽しむ姿がありました。

そんな女の子たちに、男の子たちのようにバスのお兄さんが作ってくれた土台を使うか尋ねてみたときのことです。2人は迷わず、こう答えました。
「いつもやってる太鼓がいい。」
これまで毎日、何度も叩いて夢中になってきた太鼓。青とピンクの絵の具が混ざり合ったその太鼓には、子どもたちの「楽しい」「うれしい」という時間がたっぷりと染み込んでいます。 新しく用意されたきれいな土台を選ぶのではなく、愛着のある“自分たちの太鼓”で舞台に立ちたいと決めた子どもたち。

自分たちで選び、決める。その一つひとつの選択の中に、子どもたちの揺るぎない主体性と、豊かな育ちのプロセスが詰まっています。
【年長組 劇あそびシリーズ】 幅下幼稚園の年長組が、お話を創り上げ、おゆうぎ会の舞台に立つまでのプロセスを全5回でお届けします。
① 絵本の世界をみんなでひらいていく時間
② 役割の自己決定と協働
③ 大道具・衣装・小道具づくり(本記事)
④ チーム保育で見守る子どもたちの挑戦(次回更新)
⑤ 本番と総括〜みんなで迎えたおゆうぎ会〜
