【年中組】「だれですか?」「お母さんですよ」——いつもの遊びを、劇あそびへ

【この記事のポイント】幅下幼稚園(名古屋市西区)の年中組の劇あそびは、日々の生活で生まれる自然な「言葉のやりとり」から創り上げられています。『オオカミと七ひきのこやぎ』の世界をごっこ遊びとして楽しむ中で、子どもたちが自ら大道具を作り、遊びを深めていくプロセスを重視。完成したお家の中でジュースを飲んでくつろぐなど、安心できる環境で友だちとイメージを共有し、主体的に表現を楽しむ4歳児のありのままの姿をお伝えします。

「ここはどうする?」「こっちにつなげたら?」「迷路にしようよ」

12月の後半ごろから、年中組の保育室では、こんな言葉のやりとりが心地よく響くようになりました。それまで、数人で黙々とブロックを高く積み上げることを楽しんでいた子どもたちが、お互いのイメージを言葉で伝え合い、ひとつの遊びを一緒につくり上げるようになってきたのです。

今年の年中組の劇遊びは、そんな「言葉を行き来させながら、一緒に考える楽しさ」の延長線上にあります。 決まったセリフを覚え、決められた動きを練習するのではなく、毎日の遊びの中で心を動かした瞬間が、どのようにしておゆうぎ会の舞台へとつながっていったのか。そのプロセスをご紹介します。

絵本の世界が「自分たちの遊び」に変わる時

子どもたちの姿と重なるように出会ったのが、絵本『オオカミと七ひきのこやぎ』でした。 オオカミが出てくる場面では、声も出さず、体も動かさず、でも目だけは絵本から離さない子どもたち。その真剣なまなざしからは、心の中でドキドキと物語を生きていることが伝わってきました。

ペープサート(紙人形劇)でお話をすると、今度は子どもたちの言葉が動き出します。 「それ、お母さんじゃないから、ドア開けちゃだめ!」 「何でも屋さんって、何があるのかな?」

物語の世界は、いつもの保育室にも溢れ出します。 ある朝、お家コーナーの大きな段ボール時計に、ガムテープの芯をそっと取り付けて満足そうにしている男の子がいました。保育者が「鳩が出てくる時計かな?ポッポゥ」と声をかけると、男の子はニヤリ。友だちと顔を見合わせて、「ポッポゥ」「ポッポゥ」と鳩時計ごっこが始まりました。 身近な空き箱が物語の一部へと変わる。子どもたちの豊かな想像力が、遊びをぐっと広げていきます。

「自分で選ぶ」から、熱中する

1月中旬、劇遊びに向けた大道具づくりが始まりました。当園が大切にしているのは「やらされる」のではなく「自ら関わる」ことです。 子どもたちは前日に「大時計・布団・草」の中から自分の塗りたいものを選び、「これにする!」と決めてから色塗りに向かいました。大時計を塗っている友だちを見て、「布団はまだ?」と自分の出番を心待ちにする姿からは、自分の役割への期待感が溢れています。

色塗りの最中、ある子が筆を両手の手のひらで挟み、くるくると回しながら塗り始めました。 「こうするといいよ!」 その姿を見た周りの子も真似をして、同じ塗り方が広がっていきます。大人が「こう塗りなさい」と教えるのではなく、友だちの気づきがみんなの工夫になり、一緒につくり上げる喜びを味わう。舞台の裏側には、そんな「プロセス重視」の時間がたっぷりと詰まっています。

つくって終わりじゃない。大道具は「安心できる居場所」

みんなで絵の具を重ねた大時計や布団がお部屋に並ぶと、子どもたちは「時計もいるね」「暖炉もあったほうがいいんじゃない?」と、さらにイメージをふくらませていきました。

完成した大道具は、単なる舞台の飾りではありません。子どもたちの大切な「遊び場」です。 お家コーナーでは、子どもたちがそっと身を寄せ合い、 「トントントン」「だれですか?」「お母さんですよ」 と、絵本で親しんだ言葉を使いながら、オオカミから隠れる遊びが自然と始まりました。製作コーナーで作ったジュースを持ち込んで、隠れ家の中でひと息つくような、ほのぼのとしたやりとりも見られます。

自分たちで作った安心できる場所があるからこそ、友だちとの関わりはゆっくりと、そして深く育まれていきます。

いつもの遊びを、大きな舞台で

そして迎えたおゆうぎ会。子どもたちが舞台の上で見せてくれたのは、毎日の遊びの中で繰り返してきた、自然なやりとりそのものでした。

「おおかみさん今何時?」の遊びでは、お母さんやぎが少し間をとってから「昼の12時!」と伝えると、こやぎたちからは「あ〜よかった☺️」と、心底ほっとしたような声がこぼれます。 「トントントン」と白い手足が見えてドアを開け、そこにオオカミがいると「わっ!」と、いつもの大時計の後ろや布団の中へ。みんなで塗った大道具が、今日も立派な隠れ場所として子どもたちを守っていました。

緊張してセリフを間違えないか気にするのではなく、「知っている遊びを、みんなで楽しむ」。 結果(上手さ)ではなく、プロセス(そこに至るまでの育ち)を大切にする幅下幼稚園の保育が、子どもたちののびのびとした表情に表れていたおゆうぎ会でした。