音を聴くところから始まる音楽会|年長組の12月の育ち
はじめに|音楽会への不安に、年長組の12月から答えるなら
幼稚園を探していると、
「音楽会って、ちゃんとできるのかな」
「うちの子、みんなと一緒にできるのかな」
そんな不安が、ふと頭をよぎることがあります。
けれど、名古屋市西区の私立幼稚園・幅下幼稚園の年長組の12月を振り返ってみると、音楽会は「できるか・できないか」を確かめる場ではありませんでした。
音を聴くこと。
音を鳴らしてみること。
好きな音に出会い、迷い、選び、友だちの音に耳を傾けること。
一つひとつは特別なことではありません。
けれど、その積み重ねが、子どもたちにとっての「やってみたい」「これがいい」という確かな手応えを育てていきました。
ここからは、年長組が音楽会に向かう中で重ねてきた、6つの場面をご紹介します。

音楽会までの6つの場面
音を聴いて、鳴らして、「好き」に出会う
ある日、保育室で先生がピアノを弾き始めると、その音に合わせて、楽器をひとつずつ鳴らす時間が生まれました。
タンブリン、鈴、ウッドブロック、大太鼓。
一つひとつの音の違いを、耳と身体でたしかめるように味わっていく子どもたち。
「この音すき!」
「こっちもやってみたい!」
聴いて、鳴らして、また聴いて。
そんな小さな“試してみる”の積み重ねの先に、それぞれの「やってみたい楽器」が、少しずつ見えてきました。
発表のとき、自分で選んだ楽器を嬉しそうに見せる表情は、楽器そのものよりも、「自分で選んだ」という経験が生んだ誇らしさそのものでした。
音のイメージを“見える形”にしていく
音楽会への取り組みが始まった初期、年長組の女の子が先生と一緒に楽器の楽譜を作りました。
この楽譜は、ただ演奏するための手順ではありません。
「どんなふうに鳴らしたいか」
「どんな流れにしたいか」
音のイメージを、分かる形にしていくところから、準備が進んでいきます。
楽器を鳴らすだけでなく、音を“つくる側”になる。
そんな経験が、子どもたちの中に少しずつ自信や見通しを育てていきました。

楽譜の前で、自然に歌が始まる
保育室に、音楽会で歌う曲が流れていたときのことです。
年長組の女の子たちが、壁に貼ってある楽譜の前に集まりました。
誰かに声をかけられたわけでも、「今から歌おう」と決まっていたわけでもありません。
楽譜を見ながら、自然と歌が始まりました。
指で文字を追ったり、同じ場所を見て、同じ歌を口ずさむ時間。
そこには、「やらされている」様子はなく、音楽を自分たちのものとして楽しむ姿がありました。

振り返って、次の工夫へつなげる
音楽会の週。前日に撮った楽器演奏のビデオを、みんなで見ながら話し合う時間がありました。
「太鼓が強いと、鉄琴が聞こえないね」
するとすぐに、
「じゃあ、やさしく叩いてみる?」
と、次の工夫につながっていきます。
先生から正解を教えてもらうのではなく、自分たちで音を振り返り、自分の音と友だちの音を“聴き合う”姿。
「きょうは どこを がんばる?」という問いは、頑張らせるための言葉ではありません。
気づき、考え、次につなげていくための合言葉でした。

「気持ちを届ける」歌にしていく
音楽会に向けての取り組みの中で、年長組の子どもたちは歌についてもたくさん話し合ってきました。
「にこにこの気持ちで歌いたい」
「ありがとうを伝えたい」
「感動させたい」。
どんな声で、どんな表情で歌いたいのか。
一人ひとりの思いを出し合い、相談しながら歌っていく中で、少しずつ表情や声にも“その子らしさ”がにじみ出てきました。
保育室に貼られたマインドマップには、
「お仕事で疲れてる人も、この歌を聞いたら元気になるかもしれないよ」
「さみしい気持ちもあるけど、お別れじゃないよ」
そんな、相手を思う言葉も並んでいます。
歌は、音をそろえることだけではなく、気持ちを届けること。
年長さんなりに、歌の意味と向き合ってきた時間でした。

当日の音は、気持ちと関係の重なり
音楽会当日。ステージに並んでいたのは、ただ「練習してきた音」ではありませんでした。
自分で選んだ楽器。
「強いと聞こえないね」「やさしくしてみようか」と話し合ってきた鳴らし方。
「にこにこで歌いたい」「ありがとうを伝えたい」と、何度も言葉にしてきた気もち。
音をそろえることよりも、友だちの音を聴き、自分の音を調整し、気もちを重ねようとする姿が、あちこちにありました。
歌い終わったあとの晴れやかな表情は、入園からこの日までの園生活の積み重ねそのものだったように感じます。

まとめ|日常の「たのしかった」が、舞台へつながる
幅下幼稚園では、結果よりも「どうしたい?」「どうしたらいいかな?」と考え、試してきたプロセスを大切にしています。
その経験が、子どもたちの中に、静かに力として育っていくからです。
音楽会が終わったあとに残っていたのは、「うまくできたかどうか」よりも、自分で選び、考え、友だちと音を重ねてきた時間でした。
年長組の子どもたちも、最初からできていたわけではありません。
音を出してみて、迷って、やり直して、「どうしたらいいかな」と考えるところから、ここまで来ました。
もし、集団の中に入ることや人前に立つことに不安を感じていたとしても、その「今」は、何かが足りない状態ではありません。
音を聴く。
まねして鳴らす。
好きな音に気づく。
そんな一歩一歩が、やがて「自分で選ぶ」「気持ちを届ける」力につながっていきます。
幅下幼稚園では、子どもが自分のペースで音や人と出会い、「やってみたい」を安心して重ねていける日常を大切にしています。
数年後、もしお子さんがステージに立つ日が来たとしたら、
その音の奥には、今日のような何気ない「たのしかった」が、きっと積み重なっているはずです。

