【年長の育ち】「できた!」の先にあるもの ― 遊びを通して育む探究心とやり抜く力

公園の木々がすっかり葉を落とし、マフラーの温かさが恋しい季節になりましたね。慌ただしく過ぎていく毎日の中で、ふと子どもの寝顔を見つめながら、「あぁ、この一年で、こんなに大きくなったんだな」と、胸がじんわり温かくなる。そんな夜はありませんか。

今日は少しだけ時間を巻き戻して、園庭がたくさんの落ち葉で彩り豊かになった、11月のある日のお話をさせてください。

もうすぐ幼稚園を卒園し、新しい世界へと羽ばたいていく年長さんたち。
彼らが見せてくれる姿には、単に「できるようになった」という技術以上の、世界の解像度がぐんと上がったような、心の成長がまぶしく輝いています。
今回は、そんな年長さんたちの「今」が詰まった、いくつかの物語をお届けします。

◆その小さな瞳は、世界を映す鏡。

夕暮れが早くなった、延長保育の時間。
保育室の床に、静かな、それでいて確かな熱気をもった世界が広がっていました。ひとりの男の子が、息をひそめるように、黙々と積み木(カプラ)を積み重ねています。

それは、ただのお城ではありませんでした。
幼稚園のすぐ近くに建て直しが終わったホテル「エスパシオ」。保育室の窓から毎日見える、あの建物の、細かい段差、長く続く通路、建物が重なり合う複雑な構造…。彼は、そのすべてを驚くほど正確に、心というフィルターを通して再現と想像をしていたのです。

大人が「そんなところまで見ていたの?」と思わず声を漏らすほどの、鋭い観察眼とイメージ。
子どもたちは、私たちが気づかない一瞬一瞬を、その肌で感じ、心に深く刻み、イメージを膨らませているのですね。

その心は、建物だけでなく、温かい「人」にも向かっていきます。
先日行った「お店やさんごっこ」でお世話になった地域の方々へ、子どもたちは心を込めてお礼のお手紙を書きました。私が代表で届けに回ると、美容院・マクドナルド・ビザ屋さん・アンドールさん・自動車修理屋さんの方々は、みんな本当に優しい笑顔で、子どもたちの「ありがとう」の感謝の思いを受け取ってくださいました。

自分の体験を振り返り、「ありがとう」を届けたいと願う心。そして、その思いがちゃんと誰かに届くという、人とつながる喜び。
遊びはいつしか、社会と自分とを結ぶ、温かい架け橋になっていくのです。

◆「くすっ」と笑えば、心がつながる魔法。

もちろん、一番身近なつながりは、大好きな友だちとの時間の中にあります。園庭で、二人の女の子が「よいしょ、よいしょ」と小さなテーブルを運んでいました。その上には、秋の宝物、ドングリが一つ。
テーブルが揺れるたびに、ドングリが「ころころ…」と転がります。そのたびに、二人は顔を見合わせて「あはは!」と声を立てて笑うのです。
落ちてしまったら、宝物を扱うようにそっと拾ってテーブルの上へ。そしてまた運んでは、ころころ、くすくす。

ただテーブルを運ぶだけの時間が、二人にとってはかけがえのない遊びに変わる瞬間。
同じ出来事を共有し、一緒に笑い合う。そんな何気ないひとときが、友だちとの心を、言葉以上に固く結んでいきます。

時には、その絆が、難しい挑戦へと向かう勇気になることも。
二人の男の子が、カプラで作った高い塔の間に、板で「橋」をかけようとしていました。
「どうやったらつながるかな…?」

息をのみ、慎重に、少しずつ板をずらしていく二人。しかし、あと少しというところで、無情にも塔はバランスを崩し、ガラガラと音を立てて崩れてしまいました。

思わず息をのむような、失敗の瞬間。でも、二人は下を向きませんでした。
一瞬、時が止まったあと、顔を見合わせ、くしゃっと笑い合うと、「もう一回やろうぜ!」とでも言うように、すぐにまた積み木を集め始めたのです。
思い通りにいかない経験も、大好きな友だちと一緒なら、「次こそは!」という楽しい挑戦に変わる。そのたくましいまなざしに、年長さんならではの心の育ちを感じずにはいられません。

◆「うんとこしょ!」自分の力で掘り当てた、宝物。

そしてこの秋、子どもたちの粘り強さと優しさが、最も色鮮やかに輝いたのが「お芋掘り」でした。
土の中から顔を出す大きなお芋に、「大きい!」「重い!」「抜けないよー!」と、あちこちから歓声が上がります。

でも、彼らはすぐに「先生、手伝って」とは言いません。
「これは、僕が最後まで掘る」
そう決めると、ぐっと腰を落とし、自分の指先で懸命に土をかき分け、全身を使ってお芋の根っこをたどっていきます。

先生は手を出しすぎず、その「やりたい」という心の炎が消えないように、そっと支えるだけ。この時間こそが、子どもたちの心を、ダイヤモンドのように強く磨いているのです。

だからこそ、自分の力で、粘って、粘って、最後にお芋がずぼっと抜けた瞬間の、「とれたー!」という、あの歓声。
それは、誰かに与えられた喜びとは全く違う、困難を乗り越えた者だけが味わえる、最高の喜びです。

そして、そんなたくましさのすぐ隣には、驚くほどの優しさがありました。
スコップが見つからず、途方に暮れていた満3歳の子に、年長の女の子がすっと寄り添い、「何色がいい?」と目線を合わせて声をかけ、一緒に探してあげる。

自分の力で最後までやり遂げようとする“強さ”と、自分より小さな相手の気持ちにそっと寄り添える“優しさ”。
そのどちらもが、この一年で子どもたちが自分の力で育んできた、かけがえのない宝物なのだと、私たちは感じています。

もうすぐ、子どもたちはこの幼稚園を巣立っていきます。
でも、ここで見つけたたくさんの宝物が、きっとこの先の道を照らす、温かな光となってくれるはずです。
お家でも、お子さんが何かに夢中になって挑戦しているとき、あるいは、誰かにそっと優しさを向けている瞬間を見つけたときには、どうぞ、その姿を丸ごと認めて、一緒にその気持ちを味わってみてくださいね。